現代ヨガは、西洋の影響を受け構築された?

20世紀初め、ヨーガは大きな変革を遂げました。それまでのヨーガは主に霊的覚醒、瞑想、哲学的な探求が中心でしたが、オリンピックやボディビル、西洋の軍隊や西洋のフィットネス文化の影響を受け、身体の鍛錬を重視する方向へと変化しました。その背景には、以下のような歴史的・社会的な要因があります。
イギリス植民地時代の影響
インドは19世紀からイギリスの植民地でした。イギリスは自国の教育制度や軍事訓練をインドにも導入し、体育やスポーツを奨励しました。インドでは「西洋式のスポーツや体操に対抗する形で、自国の伝統的な身体技法を見直す必要がある」と考え、ヨーガを「身体鍛錬」として再構築しました。
そして、インドの伝統的な武術やレスリング(クシュティ)とヨーガが結びき、「ヨーガは西洋の体操に負けない健康法だ!」というナショナリズム的な視点が生まれました。
この流れの中で、「伝統的なヨーガを現代的な体操として再解釈する」動きが始まりました。
クリシュナマチャリアの登場:ヨーガ × 近代体育の融合
現代ヨーガの父とも呼ばれるクリシュナマチャリアは、インド各地でヨーガを実践・研究していました。その後、彼は南インドのマイソール王国の王に、その名声を聞きつけられ、王から招かれて宮廷でヨーガを指導することになりました。これは、当時のインドにおける伝統的なヨーガの復興と普及を図る試みの一環として、王が支援したものです。
クリシュナマチャリアは、インド国内の伝統ヨーガを研究しながらも、ヨーガにダイナミックな動きを取り入れました。彼のヴィンヤサ・ヨーガ(流れるように動くヨーガ)は、西洋の体操(スウェーデン体操、デンマーク体操など)の影響を受け構築されました。
クリシュナマチャリアは宮廷で教えるために、ヨーガを「健康増進」の手段としてもアピールし、ハタ・ヨーガのアーサナ(ポーズ)を体系化し、体を鍛えるための練習法として広めました。
これにより、「ヨーガ=健康法・運動」というイメージが強まっていきました。
ヨーガのクラスと太陽礼拝のクラスについて
宮廷での指導には「ヨーガ」と「太陽礼拝(スーリヤ・ナマスカーラ)」のクラスが分かれていたとされています。これは以下のような理由からです。
①ヨーガクラス(伝統的なヨーガ指導)
伝統的なアーサナや呼吸法(プラーナーヤーマ)、瞑想を中心に教え、特に、ハタ・ヨーガの体系をベースに指導していたそうです。
アーサナ(ポーズ):古典的なポーズを体系化し、個別に指導するスタイル。
プラーナーヤーマ(呼吸法):呼吸のコントロールと生命エネルギーの調整法。
瞑想とマントラの指導:特に伝統的なヴェーダの教えに基づく精神的な鍛錬も重視されていた。
個別指導法:クリシュナマチャリヤは、一人ひとりの体力や精神状態に合わせて指導法を変えるという、極めて個別的な指導を行っていた。
②太陽礼拝クラス(スーリヤ・ナマスカーラ)
当時、ヨーガとは別のフィジカルエクササイズ(身体鍛錬法)として教えられていた可能性が高いそうです。太陽礼拝は、筋力を鍛え、柔軟性を高め、体力と持久力を強化する目的で発展しました。特に若い王族や武道訓練の一環として取り入れられたようです。呼吸と動きを連動させるヴィンヤサ・スタイルを含む太陽礼拝が、特に身体鍛錬の一環として人気を博しました
クリシュナマチャリヤは、伝統的なハタ・ヨーガの技法とフィジカルエクササイズとしての太陽礼拝を組み合わせた新しいスタイルを教えていたと考えられています。
フィットネス化の加速
20世紀半ばになると、インドのヨーガが欧米に紹介され始めました。特に1960~70年代のヒッピー文化の中で「スピリチュアルな体験」として人気に。しかし、西洋文化にとっては、瞑想だけではなく「体を動かすヨーガ」が受け入れやすかったため、フィットネス的なヨーガが発展していきました。ハリウッドやセレブたちが「ヨーガ=健康・美容にいい!」と宣伝し、「ヨーガで痩せる」「ヨーガで筋肉をつける」といったマーケティングが拡がり、フィットネス化が加速。
そして「伝統的なヨーガの精神性」と「西洋のフィットネス文化」が融合した、現在のヨーガの形が出来上がっていきました。
本来のヨーガは、「思考の純化」や「自己探求」のためのもの でした。しかし、20世紀の歴史の流れによって、「健康法」「エクササイズ」としての側面が強調されるようになったのです。
これが今、多くの人が「ヨーガ=運動」と勘違いしている簡単な流れでしょう。しかし、本来のヨーガは、「思考の純化」や「自己探求」のためのものです。
これは、近代ヨーガの成功でもあり、同時に課題でもあるかもしれません。
講座情報
【ONLINE】子育てに活かすヨーガの智慧 〜子供と共に成長する〜
・5/7, 5/14, 5/21, 5/28, 6/4, 6/11, 6/18, 6/25(全8回)
・毎週水曜日
・毎週火曜日6:00~7:00、毎週水曜日20:00~21:00